お知らせ

育休トランジション支援研究に関するご報告

2017年から2019年にかけて手がけていた研究プロジェクト「育休トランジション支援研究(復職支援としての人材育成施策研究)」の分析が完了しました。現在、ジャーナルへの投稿中です。また研究にご協力いただいた企業様へは、11月19日(木)に最終報告会を開催させていただきます。

ワークショップの様子@株式会社クレディセゾン様会議室

研究プロジェクト概要

この研究プロジェクトでは、協力企業の人事部から復職を控えた育休中の総合職の女性正社員に全4回の復職準備ワークショップ「育休プチMBA式・復職応援プログラム」をご案内いただき、希望者に受講していただきました。その上で、受講前後および復職の前後の計4回のアンケートにご回答いただき、その変化を統計的に分析するものです。また、ワークショップの非参加者の方にも同じ意識調査を実施しました。

被験者の方には、育休中にワークショップに足を運んでいただいたことに加え、分厚いアンケートに何回もご協力をいただき、大変ありがたく思っています。また人事部の方にもいろいろな形でフォローをしていただきまして、本当にありがとうございました。なお定量分析は国際ジャーナルに投稿中ですが、それに先だってディスカッションの会話分析を「育児休業中のワーキングマザーを対象にした復職支援施策の副次的効果」(静岡県立大学経営情報学部紀要『経営と情報』,2019)として査読論文にまとめました。また論文には載せられなかったデータは、報告会や書籍等で発表する予定です。

この研究では、育児休業・復職後の数年間を女性の「育休トランジション期」と定義し、職場や家庭での役割変化を経験する育休期間における意欲変化と支援策を明らかにすることを目的としています。数か月にわたって職場を離れ、職場や家庭での役割変化への適応を同時に行う育児休業とその後の数年間の過ごし方は、それ以降のキャリア展望を大きく左右します。そこでこのトランジション期間に重点を置いて、意欲変化のメカニズムを解明してどのような支援策が女性の意欲低下の回避につながるか、特に就業を継続するだけに留まらず出産後も女性がより中核的なポジションを担うことを促進していくためにはどういった要素が影響するのかを明らかにしましたが、大変興味深い結果が出ています。


プロジェクトの経緯

せっかくですので、少しプロジェクトの経緯を記録として載せておきます。2017年夏からはじめたプロジェクトですが、立ち上げたときは順調とはほど遠い状態でした。研究テーマを企画したものの、私一人では専門知識や研究スキルが不足することが明白で。悩んで古い友人である吉川先生に相談したところ、関心を持ってもらえてプロジェクトが立ち上がりました(このときのロンドン出張はその打ち合わせでした)。ただそれでも協力いただける企業さんや育休中の社員さんが見つからなければ実施できないという状況で、その時点では研究に協力いただける企業のあてはゼロ。どうしたものかと思っていたところ、ゼミ生の研究発表会で株式会社クレディセゾン東海支社のMさんと知り合いまして、自分の研究の相談をしてみたら上司のNさんを紹介いただくことになり、これは本社に掛け合った方がいいということでNさんの同期で本社の人事部長(当時)のMさんをご紹介いただきました。そして東池袋の本社に説明に伺ったところその場でご協力いただけることが決まり、会議室もご提供いただけることになりました。あの「やりましょう」と言っていただけた瞬間の視界が一気に広がる感じは、一生忘れないと思います。本当にありがとうございました。

とりあえずゼロがイチになったことに希望を持ち、協力企業さまを見つけるための営業活動を展開しました。知り合いつながりでこのイシューに関心がありそうな企業を紹介していただいたり、イクボス連盟の会合でプレゼンしたり、拙著と研究依頼状を送ったりしました。幸いこの研究テーマは企業さんの問題意識に刺さりやすかったようで、実際に説明に伺った企業さんはほとんどが協力をしてくださることになりましたし、社内の合意には至らないまでも興味を示してくださる企業も多くいらっしゃいました。こうした企業さんとのやりとりを通じて、研究の実施可能性が高まることももちろん嬉しかったですが、自分の研究テーマの社会的有用性を確信することもできました。ただ私はその時点で科研費をとっておらず、静岡-東京間の交通費をはじめとする研究資金のやりくりはかなり大変で。。。一部の企業様(株式会社クレディセゾン様とエン・ジャパン株式会社様)にワークショップ会場をご提供いただいたり、4コマ×8コース分のワークショップのほとんどを自分で登壇したりという方法で乗り切りました。2019年からは科研費をいただくことになったのでかなり楽になりましたが、お金も人もない中でやりきった経験は「研究費がなくても工夫すればなんとかできる」という自信になり、お金がないという理由で諦めてはいけないという教訓にもなりました。お金以外にも体調不良に見舞われて心が折れかけたりもしましたが、そんな時に自分を支えてくれたのは問題意識であり、このイシューは数年以内に大きな問題になるに違いない、そのときにまでにエビデンスとともに解決の方向性を示せるようにしておきたい、という思いで乗り切りました。また、人事部からご案内をいただいても対象者からの参加申し込みがなければ話にならないわけですが、幸いにも「育休プチMBA」という名前の認知度が思った以上に高く、24名もの方が申し込んでくださる企業さんも。これはひとえに、普段の育休プチMBAの活動を支えてくれている株式会社ワークシフト研究所や育休プチMBAの運営チームのおかげです。本当にありがとうございます。渦中にいるときは一人で頑張っているような気になっていたけど、冷静になれば多くの人の支えがあってこその結果だということが分かります。ありがとうございます。研究の社会還元という形でお返ししたいと思います。

そんなあれこれはありましたが、終わってみればおかげさまで19社にご協力をいただくこととなり、復職支援プログラムの参加者138名と、非参加者37名のデータを収集することができました。貴重なデータをご提供いただいたことに、深く御礼申し上げます。ざっくり分析でも面白い結果がいろいろ出ていますので、論文に仕上げるのが楽しみです。プロジェクトを通じて新たな研究テーマも見つかりました。それと、19社の横断的調査なので、各社の被験者(育休中の女性総合職)の傾向を見ることができまして、今後の能力開発や職場環境改善へのアドバイスも可能になりました。各社にフィードバックするとともに、研修のご依頼をいただいた際に参考にして開発しています。


研究協力企業様一覧(アイウエオ順)

伊藤忠商事株式会社様/エン・ジャパン株式会社様/王子マネジメントオフィス株式会社様/株式会社オプト様/G社様/株式会社クレディセゾン様/サントリー食品インターナショナル株式会社様/サントリーホールディングス株式会社様/ソフトバンク株式会社様/中外製薬株式会社様/日清食品ホールディングス株式会社様/株式会社ネオキャリア様/日本精工株式会社様/パーク24株式会社様/東日本電信電話株式会社様/富士電機株式会社様/株式会社マザーハウス様/みずほ証券株式会社様/ヤフー株式会社様